2年振りの南アルプス独行

岩塩と水で荒川・赤石岳を歩く

2006.8.218.24

 「千枚小屋から赤石岳を経由して、赤石小屋まで10時間はかかるって」千枚岳頂上で東京から来た若い夫婦の会話に割込み「そんなにかかるのか?」「山渓では8時間10分だぜ。昨日の君らの足なら、コースタイム通り行けるはずだ」「山渓のタイムは健脚向きだそうで、一度痛い目に合っているんですよ!」「でも、昨日のような雷雨が来る前には、小屋に入らなくてはな!」昨日、小屋に入った1時間後にバケツをひっくり返すような雨。しかも、ピカッと閃光が走ったとおもったら「ドカン」と小屋が揺れるくらいの勢いであった。何とか雷雨が起きる前には小屋に入りたいものだと、大袈裟だけどタイトルのような山行になった。

 山脈名を冠した赤石には、是非とも登りたかった。間ノ岳、金峰山から眺めるだけでは駄目だと思って、2年振りに南アルプスの独行を決し金沢発5:24のしらさぎ52号に乗り込む。米原で新幹線に乗換えて8:44静岡に着く。9:53畑薙第一ダム行きの路線バスに乗込む。3時間半の車中では、二度のトイレタイムがあり、最初は茶畑前の横沢。茶店のお茶が静岡ならではの渋みがあって実に美味い。次が大井川鉄道の終点、井川駅前。ここから1時間で終点の畑薙第一ダムに着くが、乗継ぐのに1時間も待たされる。だが、静鉄バスから東海フォレストの送迎バスに連絡が入って、ダム手前のフォレスト駐車場で待たずに乗車ができた。ここから椹島までは1時間。ダムサイトの砂利道を左右に揺れながら茶臼岳、笊ケ岳に通じる長い吊橋を左に右にと確かめて行く。14:30椹島ロッジに着く。
おりしも甲子園での決勝再試合が
9回表を迎えていた。受付を済ましてTVに釘付けになる。3点差の早実リードだが、駒大苫小牧がツウランホームラン、差は1点。固唾を呑んで斎藤を応援する。椹島ロッジはダムの飯場を利用したもので、5棟の内3棟は宿泊棟で食堂・風呂棟及び受付・ロビー棟に分かれていて設備も整って掃除が行き届いていている。屋外にはログハウスのレストハウスに素泊りの棟が数棟それにキャンプ地が整っている。部屋は6畳間に3人で、プラス二千円で個室が与えられる。

 22日 5:30の朝食を終えて雨が止んだ頃の6:05にロッジを発つ。裏道を10分も登ると林道に出て二軒小屋方面に坂道を下り、滝見橋の袂から入山する。滝の前を過ぎ奥西河内吊橋を渡ると、勾配がそれほどきつくないのにボディブローのように効いてくる。幾分、直登気味に上がり最初の休憩をとる。頭に巻いたタオルを絞るともう汗が滴る。橋が壊れたのか、ここから高巻して栂林を直登する。尾根に出て先を進むと痩せ尾根にあたり三点支持で下る。下って登り返すと林道に出る。ここまで2時間はかかっている。林道から鉄梯子を利用して急登をジグザグに登る。後ろから若い夫婦が迫って来ていた。途中で道を譲てマイペースで小石下を登りきり水平道に差し掛かると、左手に突然RV車が走り去ってゆく。林道が並行に走っているのかと思うと愕然とさせられる。また、林道を横切って水平道を行く。勾配がきつくなって喘いでいると、下ってくる登山者に「水場は直ぐですよ!」と励まされて一気に清水平に上がって周りに目もくれず頭から水をかぶる。実に気持ちが良い!その姿をみて、愛知から来られた60過ぎの夫婦にひやかされた。この夫婦とは抜きつ抜かれつでここまで来た。樹林帯を歩いているので陽の影響は無いが、蒸し暑く脱水状態でベルトから腰が汗でびっしょり濡れている。タオルも絞ると汗が滴り、塩と水の補給は欠かせない。大福を頬張りながら栂の林を登り水平道を行くと湿地帯の様な草地に出る。蕨段である。わらび段
ここで初めてカメラを取出す。樹木はシラビソに変わり段々と傾斜が増してきて膝を上げるのも辛い。見晴岩で
1つになった大福を腹に収めて水で喉を潤す。赤石岳が正面にそびえているらしいが、ガスと云うより雲に覆われて眺望は臨めない。ここからはシラビソ林が永遠と続く。“もう切れてもいいだろう”と次の角に来ても、また、真直ぐ道が伸びている。やっと抜けたところでヘトヘトになって休憩すると時刻は11:30。予定では駒鳥池に着いていなくてはならないのに!遅れはどれ位なのか分からないまま池を求めて歩を速める。ここを乗り越えれば池だろうと、何回思ったことだろうか30遅れで駒鳥池に着く。標柱に千枚小屋1時間とある。ここまで来れば!と、30分の昼食タイムを取り、お湯を沸かして味噌汁とコーヒーで一息をつく。

 駒鳥池から登るにつれて、山野草がぽつぽつと咲いている。写真を撮ってくれとばかりに、トリカブトが登山道に突っ立っている。

ミヤママンネングサ
サラシナショウマ

足元をみるとキタザワブシ、サラシナショウマ、ミヤママンネングサ等、登るにつれて花が増えてくる。沢山、写真を撮ったが何れも様にはならなかった。小屋が近づくにつれお花畑が広くなって感動しているうちに13:10千枚小屋に着く。

小屋は2階建てのログハウスで2階が宿泊所で下が受付・食堂となっている。水場、トイレは外にある。寝具は毛布にシラフそれに小さな枕。平日で宿泊者は少ないと思っていたが、荒川小屋から230人の団体客が加わって80人収容のところ75人が泊まった。小屋前のベンチから見える景色は雲ばかり、ビール片手に向かいに座っていた埼玉のおばさんの大きなザックを見て“テント泊ですか”と声をかけた。“中身はシラフにお菓子よ”と、行けるとこまで行こうと思っているが、1日に6時間しか歩けないのでこの量になったとか。団体客のクールダウンが終わる頃に大粒の雨が降ってきた。2階に上がって外の様子をうかがっていると、いきなりのピカドン。隣のラジオがガザガザと雷の影響を受けている。“平野部では大水が出たらしいぞ”皆、天気予報とニュースに耳を傾ける。夕食は17:00の一番にいただきシラフに入るが、飲み足りないのか睡魔がこない。18:55TVの天気予報が終わると、食堂で従業員がギターの弾き語りをしてくれる。20:00消灯だが鼾の谷間に嵌って眠れない。おまけにシラフの中は暑すぎてパンツ一丁になるがそれでも眠れない。明日は大事な日なのに真夜中まで眠れなかった。 


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