還暦記念登山「朝日岳」   ( 平成16年9月11日〜12日)

(第一日目)
 午前7時前、今回の参加者の仲間が、つぎつぎと朝日町役場前に集まってくる。みんなこれからの還暦記念朝日岳登山に向けて、やや緊張気味のようである。応援者として大蓮華山保勝会のお二人が参加していただけることは、大変心強い。
 還暦記念諸行事にあたり、昨年の準備から正月のメイン行事まで世話をしてくれた「還暦記念実行委員会」のメンバ−、野末君、氷見君、越坂君も、朝早くから激励、見送りにかけつけてくれる。野末実行委員長の激励の挨拶を受けて、より緊張感が高まる。単なる登山でなく、還暦記念行事の一環として行われるのだと・・・・・・・。
 二台の車に分乗して出発する。小川温泉元湯や露天風呂を左手に、今は跡形もない湯の瀬キャンプ場の河原を眺めながら、越道峠を越え北又小屋に着く(7時40分)。ダム建設前は、渓谷の瀬音がこだまする清澄な林の中にあったが、今は高台の上に建っている。
 さっそく身支度を整え出発とする。県内には立山をはじめ多くの山があるが、今回は朝に夕に仰ぐふるさとの厳しい山、朝日岳(2418m)に、60歳の記念として仲間の意をうけながら登ることになる。

 小屋をあとに、北又谷に架かるつり橋をわたる。谷の瀬音を耳にしながら杉林の中を登っていくと、単調な登りから、急な登りとなる。これが有名なイブリ山への急登のはじまりで、ほかの山とは一味違うところである。そして、山登りで一番体調に気をつかう、最初のワンピッチである。この急登にかかり、あらためてメンバ-の顔をみると山慣れしていない仲間もいるようだ・・・・・・・・。しかし、そこは指導なれた保勝会の応援者の歩行リ−ドは抜群である。先を見越したように、ゆっくりのなかにも一定のリズムがある。年に何回もこの山に登り、草木一本までわかっているとのこと。毎年の山開き登山や、いろいろな朝日岳行事で多くの山愛好者のお世話をされているのでまったく心配がない。本当に心強く「これなら、みんなそろって登れそう!」と感じたのはわたくし一人ではないだろう。

 約30分の登りでイブリ山一合目に着く。渇いたのどをうるおし、眼を下にやると、北又小屋は足元はるか遠くに見える。いかに急登を登ってきたか、よくわかる。ここからは美しいブナ樹林帯のはじまりである。二合目、三合目と登ると眼下の小屋は視界から消え、瀬音も聞こえなくなる。ひたすらイブリ山山頂の十合目を目指しての登りである。そのうち、口数も少なくなってくる。
すると、ちょっとした異変に気づいた。自分たちの登山靴の足音以外に何の音もしないのである。木立ちの風の音も、小鳥の鳴き声も・・・・・・・
 何も音がない。おもわず誰かが「えらい、静かやノ-!」と、すると「そうだな!この4日前の台風18号、久しぶりに強い南風が吹いたろう!それで鳥たちは中国大陸に飛ばされ、風は日本海に消えていったのだろう!」との返事が返ってくる。そういえば、ところとどころ折れた樹木が散乱していて、今回の台風のすごさをあらためて感じさせられる。

 四合目を過ぎ、ブナ平の平坦な道を行くうち、体調不良で吐き気をもよおす者がでてくる。体は元気そうだが、顔がやや蒼ざめている。やはりいきなりの急登でこたえたのか・・・・・・・。しかし、そこは仲間である、言葉で元気づける者、冷たい飲み物をだす者、荷物を担ぐ者、着替えを勧める者、等みんなで記念登山を成功させようと必死である。「ナーン、大丈夫!元気な男性陣に囲まれ紅一点なものだから、おめでたの症状がでてきたようだわ」の思わぬ言葉にみんな胸をなでおろす。そうこうしているうちに五合目に着く(10時30分)。
 ここには冷たい水場もあり、鋭気を補充する。ブナ樹林帯はどこの山へ行ってもよくあるが、ここイブリ山のブナは、木々に勢いがあり一本一本のおもむきに森林の王者の貫禄を備えている。足元に花がない分、よけいにそう感じる。
そう思いながら、ふと頭上に眼をやると、そのブナの大木が倒れかけ、となりの木にもたれかかっている。こんな大きな木でも、あの台風に耐え切れなかったのか、と自然の強さと弱さ(もろさ)を思い知らされる。
 さあ、出発だ!イブリ山も半分が過ぎた。頑張らねば!

 六合目、七合目と適度な休憩をとりながら順調に登っていく。樹林もブナから、ダケカンバ、ミズナラへと変わってくる。八合目に着く。ここはいつまでも残雪のあるところであるが、もちろん今はその名残りもない。小沢となり、九合目に着く。みんなの顔にも、慣れてきた体と、もう少しでイブリ山の山頂に着くことで安堵感が表われている。
 ついに十合目イブリ山(1791m)山頂に到着(12時20分)。ここまでくれば今日の行程の目安がついた。ホッとした表情だ。重厚なテ−ブルとイスが新調されている。昼食とするが、一口のビ−ルがうまい。天気さえ良ければ、ここからは正面に朝日岳が望めるのだが、今日はあいにく薄雲の中である。「西島リ−ダ-!、今日の宴会は何時からでしょうか?」「4時頃からだろう。そのまえに、もう少し頑張ってくれ!」と会話にも余裕がでてくる。

 イブリ山頂からいったん下って、クサリの岩場を越すと緩やかな稜線歩きとなる。そして、夕日ケ原の入り口に着く。すこし前の頃には、ハクサンコザクラ、チングルマ、イワイチョウ・・・・・等多くの高山植物が競い合うように咲いていた庭園のはずだが、今は唐糸草、リンドウがわずかに咲いているだけである。ここらあたりでよく会うライチョウはいない。下方に眼をやると、今登ってきたイブリ山、小川の流れ、朝日ダム、その向こうには新川平野、富山湾が良く見えるようになる。たしかに天候が良くなってきているようだ。残り少ないベニバナイチゴの実を口にしながら、前朝日岳の裾野の木道を進むと朝日平にでる。正面に朝日岳が望め、その前庭の一角に赤い三角形の屋根をした朝日小屋が眼に入る。おもわずみんなが「ヤッホ−」の掛け声を連呼し、小屋のご主人、清水ゆかりさんが笑顔で迎えてくださる(15時10分)。

本日の宿泊客は私たちのほかに夫婦の一組だけとのこと、私たちは二階の大広間に案内される。 4時を待たずに宴会が始まったことは、言うまでもない。めいめいのリックの奥底から、うまそうなおかずが次から次とでてくる。酒はヘリコプタ−で事前に上げてあったということで十分にある、とのこと、早速、満感の思いを込めて「乾杯」となる。そして、なつかしい小学校の思い出に、今回の登山にと限りなく話しは続いた。

(第二日目)
 3時起床。3時30分小屋を出発し、朝日岳頂上をめざす。ヘット・ライトの明かりを頼りに補修された木道を進む。空は満天の星で、「あれが雨の川、北斗七星、カシオペア座、アンドロメダ座、・・・・・等、にわか星座講義もはじまる。ひんやりした冷気のなかを、心地よく登っていくが、何かのどが渇く。昨夜の酒のせいであろうか・・・。ちょうど水場につき一息いれる。冷たい水がのどをうるおし、おもわず「うまい!」の声を発する。4時30分、ついに朝日岳頂上に着くが、あたりはまだ薄暗い。さっそく御酒の振る舞いがはじまり、これも敬謙あらたかで格別の味がする。
 徐々に明るさが増してくる。365度の展望である。富山湾、能登半島から焼山、火打山、妙高山、戸隠連山、白馬岳、旭岳、清水岳、薬師岳、立山、剣岳、毛勝三山、駒ケ岳、僧ケ岳、新川平野、黒部川等、墨絵のような限りない山並み等が眺望できる。
 待つこと時刻は5時28分、東の火打山、妙高山の奥山から、真っ赤な赤いものが覗くと、見る見る陽が昇ってくる。御来光だ!おもわず、「万歳!万歳!万歳!」と山々にこだまする。アッという間に陽が昇ってきて、一面の山並みは赤く輝きだす。
「いま輝くこの御来光は、あの白馬岳にも立山にもない。ここ朝日岳にいる昭和31年度泊小学校卒業生だけのものである」との西島リ−ダ−の声にみんなうなずき感激する。私は何度も御来光を見てきたが今日のは、その3本指に入るすばらしいものである。どれだけ眺めていてもあきない風景であるが、気温が下がってきて寒さを感じるようになったことや、あとの行程に差し支えないよう、小屋に向けて下山することとする。

 頂上の木道横に、朝日岳山頂の名花「マツムシソウ」の残り花が一輪、私たちが登ってくるのを待つていたかのように咲いていた。
 小屋にもどり、朝食となる。「どうして、こんなに天気の良い日に計画したがけ!」「3年前からこの日に決めておったんよ。絶対最高の天気になるとわかっていたからさ!」と自信満々の返事である。(本当は、自分の休暇に合わせただけ、とのことが後からわかる)楽しい会話や頂上へいってきた感激でビ−ルが一段とうまい。
 快晴の天候のもと、小屋のまえで、清水ゆかりさんを交え記念の写真を撮る。白馬岳をバックに、いや朝日岳だろうと注文が多い。清水さんをはじめ小屋の従業員の見送りを受け、朝日小屋を出発する(8時45分)。前朝日岳の山裾の峠で私たちの姿が見えなくなるまで手を振り、ハーモニカの音色を添えて送ってくださる。「ありがとう!」「また、来ます」「さようなら」と感謝の言葉を振り絞る。

 夕日ケ原の木道を淡々と歩くが、下り道はやっぱり楽だ。昨日より草紅葉は黄化しているようである。ふと、遠くに眼をやると、一人の登山者が登ってくる。女性のようだが、やけに慣れた歩き方である。9時過ぎなのに、えらく速く登ってくるものだ、と感心していると「由紀ちゃんでないか」との声。中学校の同級生水島由紀子さんのことである。いつも朝日小屋で働いているが、今は閑散期のため下山していて、私たちの登山を耳にして今朝、追いかけて登ってきたとのこと。この朝日岳に日帰り登山とは、たいしたものである。しばらく、なつかしい会話をしたあと、「またあとで、北又で会おうネ」という言葉を残し足速に登っていった。

 イブリ山に到着(10時30分)し、振り返ると大きく鎮座する朝日岳が雄々しい。休憩の後、今度はイブリ山からの下りにかかり、9合目8合目と順調に進む。五合目で大休憩となり小屋の弁当で昼食とする(12時10分)。ここからは登りに苦労した最後の下りにかかる。下におりるたびに北又小屋が大きく見えるようになり、瀬音も聞こえてくる。三合目、二合目と疲れた足をいたわるようにゆっくり降りていく。「あとわずかだぞ!」の声に励まされ一合目も過ぎる。最後の急な下りを終え、杉林の中を歩くが、やはり長く感じる。ようやくつり橋を渡るが、最後の急な100段のコンクリ−ト階段はやけにきつい。

やっとの思いで北又小屋に着く。(14時15分)みんな握手をしながらお互いに労をねぎらう。「ごくろうさん」「よう、行ってきたノ-」「がんばったね」「ああっ、疲れた」と顔を洗いながら、にこやかな表情である。
 北又小屋をあとに無事、朝日町役場に到着する。これで今回の記念登山は終了である。越坂君が冷たい飲み物をもって迎えにきてくれている。

 今回の還暦記念登山「朝日岳」が成功裏に終えることができたのは
1、これ以上ない天候に恵まれたこと
2、大蓮華山保勝会のお二人に、最高の応援をしていただいたこと
3、そして、各自の登山経験は別にして、仲間の代表としてどうしても登ろうと言  う強い意志が9人にあったこと
4、「還暦記念実行委員会」が締めくくりの行事として、強力にバックアップし
  てくれたこと
 等のせいではないでしょうか。

 終わってみれば、つらい登りであったが、楽しい会話あり、すばらし眺めあり、輝く御来光があり、おいしい酒があり、そして助け合う仲間があり、と楽しく充実した2日間であった。
 大蓮華山保勝会のお二人さん、そして、お世話してくれた実行委員会の皆さんありがとうございました。
                         記録担当;岡本 邦夫


参加者(昭和31年度泊小学校卒業生) 9名
     (大蓮華山保勝会 応援者)    2名

 朝日岳
 北アルプスの最北端に位置する標高2,418mの山。朝日・入善の下新川地方に住む私達にとっては、朝日の昇る山として、朝な夕なに仰ぎみる。仏様に座する八葉大蓮華の花のようにも見え、大蓮華山とも呼ばれる。美しいブナ林、夕日ケ原を中心とした高山植物群等、大自然をたっぷり味わうことができる。コ−スとしては、白馬、雪倉方面から、蓮華温泉から、さらに親不知からの栂海新道から、さらに今回の北又谷から等ある。最近は北又谷コ−スは急登があることで下りに使 う場合が多い。